反魂 05


 ざしゅッッ!!
 ガンダルフ・レウニオン卿の鋭い一撃が、私めがけて一直線に放たれた。レイピアは左胸に吸い込まれ、私は絶命する――はずだった。
「ジュネス!!」
 直前でジュネスが、レウニオン卿と私の間に割り込んだのだ。それにより、レイピアはジュネスの筋肉質な右腕を突き刺すのみに留まった。
「Nzib・Nztwzovmvめ。しくじりおったか……」
 呟いたレウニオン卿の背後の空間が歪んだ。そして、その空間を引き裂いて闇が生じた。
『心外ですね、人の子よ。わたくしが人間如きにおいそれとやられると?』
 黒い衣服に身を包んだ女性が姿を現した。女性の顔には小馬鹿にした笑みが広がっている。
「……ふん。やられずとも、ジュネス・ガリオンを引きつけておけぬのであれば役立たずよ」
『あら、随分な御言葉ですこと』
 肩をすくめた女性は、柔らかく微笑む。しかし、直ぐさま瞳を鋭くして、一気に姿を悪魔のそれに変える。恐ろしい形相でレウニオン卿に迫った。
『我らが王、Hzgzm・Ofxruviの召喚を手助けしていただいていることには感謝と敬意を示しましょう。しかし、貴様は所詮、下賤な人の子。我らとは違う劣等種であることをゆめゆめ忘れぬように』
 端から見ている私でさえ、足が震えて立っていられない。にもかかわらず、レウニオン卿は冷めた瞳を悪魔へと向けて、鼻で笑った。
「ふん。手助けがなければ召喚術の扱えぬ分際で優秀ぶるとは、程度の低い阿呆だな。いいからジュネス・ガリオンの相手をしていろ。準備は整ったのだ。儂の望みと貴様の望み。双方を叶える準備がな」
 レウニオン卿の言葉を耳にして、悪魔はやはり面白く無さそうに表情を歪めた。しかし、ようよう落ち着いたようで、再び女性の姿をとった。
『まあいいでしょう』
 呟いた女性は、つかつかと歩みを進めてジュネスに近寄る。
 ジュネスは傷ついていない方の腕で剣を抜き、構える。彼が小さく呟くと、剣は微かに発光した。
『人の子にしてはやりますこと。わたくしと渡り合える人間など、数千年に一人がいいところ。さすがは…… あの世で誇ってよいですよ』
「へっ。生憎、まだあの世とやらに用はねえもんでな」
 いつもの減らず口を叩く余裕を見せてはいるが、ジュネスはこれまでになく苦戦している。地下空間という制約上、ジュネスの圧倒的火力をいかせないのが辛い。
 どんッ!
 悪魔の蹴りをジュネスが剣の腹で受け止める。その威力は彼をそのまま吹き飛ばした。とはいえ、そこはさすがにジュネス・ガリオンだ。無様に床へ転がることなく、着地する。
 しかし、悪魔は彼を追って直ぐさま地を蹴った。
「ジュネス!」
「こっちはいい! レウニオンを止めろ!」
 友の怒鳴り声を耳にして、私は卿へ向き直る。
 そうだ。レウニオン卿は言った。準備は整った、と。先程は私の血が必要だと言っていたが、それは、王族としての私が持つ古の英雄から受け継いだ魔力の高い血液が必要、という意味だったのだろう。しかし、私の血ではなくとも、高い魔力を有した紅き液体が地を染めた。
「名高き魔法使い、ジュネス・ガリオンの血液。少量とはいえ含む魔力は膨大。ふふふ…… はーっはっはっはっ! これならばグラディアス王国全体を覆う逆五芒星の力を集結させるには充分よ! さあ、時は満ちた!!」
 狂喜の表情を浮かべて、レウニオン卿は叫んだ。
 棺に眠るミライア・レウニオン。虚空を見つめ嗤うガンダルフ・レウニオン。この親子の悲劇には心を痛める。しかし……!
 私は勢いよく駆けだした。


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