番外編1『消費する者』 1




 本日は大切な目的がある。それゆえに、まことに残念ながら俺と鵬塚は部活を休まねばならない。本当に本当に残念である。
 そんなわけで、これから尚子のクラスに行って許可を貰わねばならんのだ。
 ……ふう。少し緊張するな。理由を聞けばあいつも納得するとは思うが、あいつ、俺が相手だとうざいくらいつっかかって来るからな。鵬塚を前面に出した方が得策か? ……うん。そうしよう。
「なあ、鵬塚。本番前のウォーミングアップっつーことで、尚子相手に部活休む理由をハキハキ言ってやってくれるか?」
 コクコク。
 ハキハキ喋れっつー頼みに対して、ジェスチャーで応える辺り、まったく信頼できんが…… まあ、ハキハキの部分に信頼が置けないというだけで、尚子を説き伏せる事に関しては信頼していいだろう。
 さて。行くか。
 ガラガラ。
「尚子ー。いるかー?」
「泰司? 突然どうしたの? あ。今日は部活さぼるんじゃないわよ」
 自分の席で、尚子は鞄に教科書やら何やらを詰めていた。彼女はこちらにチラリと視線を送り、それから目つきを鋭くして言った。
 そんなこと言われるほどさぼった覚えもないがな。入部してから一週間。平日五日のうち、三日は真面目に出てやったんだ。中々の出席率ではあるまいか。
 そしてまた、今日もサボりではない。先述した通り、非常に大事な用があるのだ。
「鵬塚」
 コクコク。
 呼びかけると、鵬塚は真剣な表情を携えて頷き、一歩前に出た。
「あ、真依も一緒なんだ。とすると今日はサボるつもりじゃなさそうね」
「……こちゃ……」
 鵬塚が尚子の名を呼ぶと、彼女は笑顔を浮かべ、鞄を手にしてこちらへやってきた。
「どうしたの? 真剣な顔して」
「……う……かつ……み……の……」
 ちっともハキハキしていなかったが、伝えるべき情報は言葉として発せられた。ちなみに今のは『今日部活休みたいの』と言っていたのだ。
 それにしても、いつも以上に聞き取りづらかったな、今の。
 アレかね。部活を休むのが後ろめたくて声が小さくなったのかね。
 きっ!
 そこで、なぜか尚子に睨まれる俺。更には胸倉をつかまれた。
「……おい。何をする?」
「真依に何を吹き込んだのよ」
 どすの利いた声でそのように仰る文芸部部長殿。
 俺が言おうと、鵬塚が言おうと、尚子の機嫌は悪くなり、そして俺が被害を受けるのか。どうやって惨劇を回避しろっちゅーんじゃ。
 ……いや待てよ。俺の口で伝えていたら問答無用で殴られていたかもしれん。これでも鵬塚効果はあった……と思いたい。
「少し落ち着け。おい鵬塚、理由も言え。俺が殺される」
 よく考えたら理由がまだ開示されていない。その理由を聞けば尚子も納得することだろう。……そう願いたい。
 コクコク。
 鵬塚はやはり真剣な表情で頷き、口を開く。
「……から……みや……くん……しょに……ぐ……に……くの……」
「は?」
 開示された理由に、尚子が間抜けな表情で間の抜けた声を上げた。気持ちは判らなくもない。



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