第3話『地を駆け回る者』 09




 鵬塚兄の盗聴器を駆使した情報収集により、物騒な連中は3名いることがわかった。銃は1人1丁ずつ所持しており、合計で3丁。そして、1年5組の男女5名が拘束されていて、その中にはやはり岬が含まれているようだ。
「会話の端々を拾うに、昨日あった銀行強盗の犯人グループらしいね。校舎に人が居なかったから忍び込んで身を潜めていたみたいだけど、岬くんたちと鉢合わせて、銃で威嚇して捕まえたらしい。浅はかというかはた迷惑というか……」
 頭を抱える鵬塚兄。
 確かに、いくら人が見当たらなかったとはいえ学校に潜むのはどうかと思わざるを得ない。廃校舎でもない限りはいつかは必ず人が来る。実際、来た。ならば、端っからどっかの廃ビルにでも潜んどけっつー話だよ。
「……たし……つ……える……」
「駄目だ。犯人たちを捕まえるだけならともかく、岬くんたちを救出する必要がある。複数人に星選者の能力を見とがめられてしまう可能性が高い」
 フルフルっ!
 鵬塚が強く首を振る。
「……んこう……たっていい……!」
「問題は転校ではないんだ、真依。分かっているだろう? お前の存在が広く知れるのは、そもそもまずいのだよ。漏洩を事前に防げるのであればそれに越したことはない」
 フルフルっっ!!
 より激しく首を振る鵬塚。
 ……ったく。聞き分けのない奴だ。まあ、俺だって同じだがな。
「おい、尚子。廊下ダッシュする体力と根性出せっか?」
「ええ。岬と真依と体育祭。全部守るならそれが1番ね」
 素早くご理解いただけたようで幸いだね。
「……み……すく……?」
「星選者の能力を見とがめられたくないのなら、岬たちが居ない場所で犯人共をのせばいい。俺と尚子で1人ずつおびき出す。各個撃破だ」
 訝しげにしている鵬塚兄妹を正面から見つめ、言い切る。
 隣で尚子も大きく頷いた。
 そして、しばしの沈黙。
「……………何を言ってるのかな?」
「無茶なのは知ってるけどな。警察に連絡したら犯人共を刺激するし、先生に知らせたって結局は警察に話が行くだけ。永治さんの権限で自衛隊を動かしたとしても、大仰な奴らが姿を見せたら、やっぱ犯人共が暴走しないとも限らん。なら最適解は――」
「学校に居るのが当然であり、かつ、銃を持った大人よりも圧倒的弱者の立場にある高校生が――あたしと泰司がおとりになって、犯人たちを1年5組の教室からおびき出すこと」
 ブンブンっっ!!
 いつになく懸命に首を横に振る鵬塚。表情が辛そうに歪むのも珍しい。
 ふぅ。というか、何か勘違いしてないか、こいつ。
「あのなぁ。別に俺らは生き急ぎたいわけじゃねぇぞ? お前を信じてんだ」
 ……ぱちくり。
 ぴたりと動きを止めて、鵬塚は大きな鳶色の瞳を瞬かせる。
「ここは何だかんだでがちがちの法治国家、日本だ。いきなり発砲されることはないだろう。まして、下手に撃つと人を集めかねんしな。なら、おびき出しに失敗して問答無用で撃たれる可能性は低い」
 銃刀法違反という法律に幼い頃から触れてきた人間が、いくら実物の銃を手に入れたとしても、真っ昼間の学校でそうそう発砲するとは考えづらい。仮に撃ったとしても、威嚇射撃だろう。
「おびき出しに成功すれば、あとはお前の星術の出番だ。俺はお前が、銃弾どころか貨物トラックを星術で止めるところを見てる。万が一にも銀行強盗1人ずつにやられるなんて思っちゃいないぜ」
「それに、真依がいつだって一生懸命に頑張ってること、あたしたち、知ってるから」
 ……恥ずかしい台詞に俺を巻き込むなよ。
 まあ、いいけど。
「犯人共は永治さんの人脈を駆使して適当に警察に引き渡せばいいし、1年5組の連中を口止めすれば学校側に事件は伝わらん。そうすりゃ、楽しい楽しい体育祭が中止になったりもしないだろう」
 とは言いつつも、後輩連中の口止めが1番難しい気はしている。人の口に戸は立てられん、と昔の人も言っていた。
 ざっ。
 鵬塚兄が立ち上がった。常ににこやかなその表情は、しかし、険しい。
「君たちの話は、僕が反対すれば頓挫するね。僕にとって最も優先されるべきは真依の安全だ。それは今回の1件に限ったことではない。真依の一生を通して、という意味でだ。他者の安全性が多少損なわれる、という程度の理由で、真依の一生に影を差しかねないような行動を、許可すると?」
「……に……さん……!」
 怒ったように声を荒げる鵬塚。
 しかし、鵬塚兄は彼女に構わず、俺と尚子に凍てつく視線を投げてくる。
 ふっ。
「……何を笑っているのかな、富安くん」
「あんたが今口にした理屈は無理があるだろ。その理屈が絶対なら、鵬塚はここで勇者の格好なんてしちゃいないさ」
 鵬塚の安全だけを考えるなら、いくら鵬塚自身が望んだとはいえ、高校に通わせるなんていうのはあり得ない。そのラインを許した時点で、鵬塚兄の行動指針は、鵬塚自身の安全を守ること、から、鵬塚が望む全てを通すこと、に変化する。
「……ふぅ。君には適わないね。変なところで頭が回る。いいだろう。やってみなさい。真依単独でなら反対だが、君たちが臆せずに手伝ってくれるというなら、許容範囲内だ。少し特殊だが、これも学生時代のいい思い出になるだろう。ただし、星術のレベルは0で押さえるように」
 よし。許可が下りた。
「なら、早速いくぞ。昼休みもあと30分くらいしかない」
「オッケ」
 コクコクっ!



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