第3話『地を駆け回る者』 08




 相変わらず、鵬塚兄は料理が美味い。午後も運動することを考えるとあまり食べ過ぎるわけにはいかないのだが、ついつい手が出てしまう。特に、鵬塚の好物であるハンバーグは絶品だ。
 鶏と豚の合い挽き、豚と牛の合い挽き、牛と鶏の合い挽きという、3種が用意されているのだが、個人的には豚と牛が好きだな。鶏が混ざるとつみれみたいになってハンバーグっぽくない。
「泰司。あんた、ハンバーグ食べ過ぎよ」
 騎士姿のままの尚子が言った。
「お前に注意される謂われはない」
「なっ! ……人の家のお弁当食べさせてもらっといて随分態度でかいじゃない?」
 がしッ!
 俺が掴んだハンバーグに箸を突き立てて、馬鹿がこちらを睨み付けてきた。これでは上手く口に運べん。
「これは鵬塚家の弁当だ。お前は速水家の弁当食っとけや!」
「ならあんたも富安家の弁当食べなさいよ!」
 ふん。今日という晴れの日に鵬塚兄が張り切らないはずはない。こうして豪華すぎる弁当を彼が作ってくることは予想済みだ。つまり!
「俺は今日弁当がない! 端っから鵬塚家弁当目当てだ!」
「こらぁ!!」
 当の鵬塚家2名が苦笑しているのみであるのに対して、速水家長女だけが瞳をつり上げる。この女は真面目だよな。そのうち胃に穴開けるぞ。
「なぁに。構わないよ。ハンバーグは多めに作っているからね。ただ、富安くん。おにぎりと野菜も食べなさい。肉だけでは体に悪いよ」
 ちっ。許可が下りたのは喜ばしいが、うざい指摘をいただいちまったな。
「ところで、岬くんは来ないのかな? 初めて出来た後輩ということで、彼も真依のお気に入りなのだが……」
 このシスコンめ。鵬塚のためとなれば誰をも巻き込むその精神、あまり感心せんぞ。
「岬はクラスの子たちと教室で食べるって言ってましたよ」
 尚子の言うとおり、岬は友人との会食を優先させた。俺があいつの立場でもそうするだろう。何故に先輩の家族と一緒に飯を食わねばならんのだ。
 ぱああぁんッッ!!
 ん? いたずらか? 先生方もスターターピストルの管理くらいしっかりしてくれ。
 ばッ!
「? どうした? 何かあったか?」
 突然立ち上がった勇者姿の親友殿を瞳に入れて、尋ねる。
 鵬塚は険しい表情を浮かべて、校舎の方を見ていた。そうしてしばらくすると、鵬塚兄の元へ寄る。
 鵬塚兄は、鞄から何やら機械を取り出して耳に当てていた。手元のリモコンを弄りながら、同じく校舎に鋭い視線を向けている。
「……い……ん……!」
「一年棟が騒がしいな。罵声と悲鳴が聞こえる。先程の銃声から鑑みるに、喧嘩どころの騒ぎではないだろうが…… 何が起きている?」
 は? ちょっと待て。
「さっきの銃声はあれだろ? スターターピストルの空砲だろ?」
「いや。あれは実弾を撃った音だよ。盗聴器で聞いている分には誰かが撃たれたわけではないようだが、犯人と思われる人間は興奮している。場合によっては流血沙汰になってしまいかねない」
 実弾? 犯人? 流血沙汰? 待て待て! 頭が追いつかん!
「犯人の声が聞こえてくる盗聴器を仕掛けているのは……1年5組だな」
『なッ!』
「? どうかしたかい?」
 鋭い目つきに疑問の色をのせてこちらを見る鵬塚兄。しかし、しばし俺も鵬塚も尚子も二の句が継げない。
 現在の細かい状況はわからない。どこの誰が如何なる理由で実弾を撃ったのか、さっぱりである。そんな中でひとつだけ明かな事実がある。
「……………1年5組は岬のクラスだ」
 あいつが危ない。



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