第3話『地を駆け回る者』 06




 昼飯前の最後の競技、部活対抗リレーを前にして、青組と白組の点数が拮抗している。そして、他の5組の点数が後を追いかける形で進行している。ちなみに、青組は我らが2年7組が属し、白組は尚子の2年3組が属している。
「部活対抗リレーは点にならないし、ひとまず休戦だね」
 コクコク!
 騎士の格好をした文芸部部長、速水尚子が言った。甲冑などの諸々の衣装は、商店街の貸衣装屋から借りたらしい。
 部活対抗リレーは各組の点にならない。では何を目的としているのか。
 1つに、部費のアップだ。1位は20パーセント、2位は10パーセント、3位は5パーセントの部費アップが生徒会から約束されている。基本的に我ら文芸部は本しか購入しないゆえ、たとえ5パーセントのアップであっても書籍1冊分くらいにはなる。当然ながら、書痴たる尚子は張り切りすぎな程に張り切っている。
 そしてもう1つの目的として、運動だけで進行されるプログラムに緩みを与えよう、というものがある。走って、走って、走って、走る。運動が大好きな脳筋どもならばいいだろうが、通常であれば心が折れる。そんな空気を昼休み前に一新するため、午前の部の最後には部対抗のコスプレリレー大会が開催されるのだ。
 そう。コスプレしてリレーをするのだ。……これを初めに考えた体育委員、バカだろ。
 まあ、いまさらだ。それよりも、尚子が騎士なのは先にも紹介したとおりだが、他の面子についても記しておこう。
 鵬塚は魔法使い。ゆったりとした黒いローブにとんがり帽子といういかにもな風体だ。スカート丈は制服と同程度であるため、走りづらいということもないだろう。
「……っこ……い……?」
 得意げにしているところ悪いが、格好いいというよりひたすら地味だぞ。
 後輩の岬俊哉は竜人族のコスプレらしい。緑を基調とした鱗柄の衣装に身をつつみ、ベルトと一体になっている大きな尻尾を腰につけ、立派な翼を背負っている。
「僕はホームズのコスプレとかしたかったんスけどねぇ」
 ミステリーファンがのたまった。
「駄目よ。今年はファンタジーで統一するって決めたでしょ? いい衣装を着せてあげたんだから感謝して欲しいくらいよ」
「はぁ…… どうもっス」
 全く感謝していないのは間違いないだろう。そもそも、ファンタジーよりもミステリーに傾倒している岬にとってみれば、竜人だろうと騎士だろうと然程違いはないに決まっている。
「ま。富安先輩よりはマシっすけど」
 ……さいですか。
「なによ。泰司もいい役回りじゃない。ねえ?」
 そう言いつつも、顔中に馬鹿にした笑いが広がってるぞこのヤロウ。
『部対抗リレーに出場する方々は位置についてください』
 ちっ。嫌な時間がついに来ちまった。
 最後に俺の格好だが、姫だ。王女様だ。国王の娘だ。裏設定としてヒーラー職を兼任しているらしく、杖というオプションを手に持たされている。そして、スカート丈が長い。歩きづらいことこの上ない。女っつーのはよくこんな頼りない布っきれを腰に巻いて歩き回れるもんだな。
「……行くか」
 イライラとしつつ歩き出すと、鵬塚がその後に続いた。そして、勢い込んで首を縦に振る。
 コクコク!



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